三軍の幸福論

君も幸せになる時が来たんだ

世に蔓延する不幸をハサミで整える仕事




久しぶりにこのブログを開いたが、まず驚いたのは「昔の俺、どんだけ書くことあったんよ」ということだ。


そういえば高校時代の友達と話してて気づいたのだが、方言で喋ると一人称が「俺」になるらしい。


僕は「僕」を標準語だと思っているふしがある。


というか僕って、アレックス英智って名前だったんだなあ。


よくそんなクソダサハンドルネームで斜に構えまくった文章を書けたな。


でも吉本ばななもふざけた名前に似合わぬ繊細な文章を書くし、キラキラネームなんか付けなくても愛を以って子育てすれば自ずと人は輝くはず、たぶん人間ってそういうものだ。




さて、僕を心配してDMやらを送ってくれたファンの皆様へ。


返信できなくてごめんなさい。


じゃあ謝ったところでファンサービスします。


近況報告です。


一言で言うと、夢に向かって頑張っている。


うわーお前アレックスのくせに夢に向かって頑張ってんのかよ!


人の夢を笑うな。


僕はなににつけても飽きやすい性格だが、小学校高学年頃、お化けのように枕元に現れた夢を未だに持ち続けている。


辛く厳しい現実に晒されて高校時代に一度捨てた夢が、大学一年生の冬くらいに再燃した。


ここでは身バレが怖いのとストレートに夢の話をするのはちょっと恥ずかしいので、仮に夢を「トリマー」とする。


本当にトリマーになりたい人を馬鹿にする意図はないのであしからず。




5月中旬、自分にとってショックな出来事があった。


僕の中では現在進行形なんだけれども。


それを引きずりながらしばらく大気に漂うように生きていたのだが、なにかに没頭すればその間だけはその痛みを忘れられることに気がついた。


いずれ実現させるつもりでいた未来予想図の予定を、全て前倒しすることに決めた。


まず、6月に開いた無料トリミングイベント。


とにかく自分がどれくらい犬を可愛く刈り上げられるのか、良くも悪くも現段階でのレベルを飼い主達に知ってほしかった。


まだ僕が駆け出しのトリマーであることも飼い主達は承知の上だったので、皆温かくトリミングを見守ってくれた。


当時の僕はこれを受け入れられなかった。


そんな生半可な反応ならトリミング中の愛犬を強奪して帰ってほしかった。


はじめてのおつかいを視聴しているかのような視線が耐えられなかった。




それでも好評であったのは事実で「また刈ってください」と口々に言われたものだから、無料トリミングイベントは二回目も開催される運びとなった。


それから今月で五回目になるが、最近では自分に鞭を打つために開いている。


僕は自分のちんこについたティッシュの切れ端にも気づかぬような怠惰な男なので、こうでもしなきゃ努力できない。


僕は僕を必要としていなくて、誰かに必要とされるような環境がなければ奔走できないのだ。




それから9月に東京へ行き、ベストトリマーオブザイヤーに出場した。


僕は必ずこの大会で爪痕を残すと決意し、両目ギンギンで新幹線の切符を買った。


しかしいざ出てみると、途中までは良かったものの仕上げの段階でまさかのチワワ大出血。


ハサミが突然ナイフに変わった。


思っていたよりも全然だめだった。


多分トリミングを少し舐めていた。


そりゃ一流のトリマーだって確率は低かろうがミスる可能性を各々持ち合わせているわけで、それを常に成功させる強運のトリマーに憧れてこの世界に入ったんだ。


常にサイコロで6を出し続けて日本一のトリマーになるという自分への淡い期待が、それよりも遥か手前の段階で霧のように消えてしまった。


こんな勝負弱いトリマーになるつもりはなかった。




その日の夜は、自分史上最大の自己嫌悪に陥った。


Twitterで「みなさん久しぶり。死にます。ドルマゲス」と残して自殺しようかなとも考えたが、僕は有言不実行で周りに心配をかける人間が大嫌いなので、そこだけはなけなしのプライドがなんとか持ちこたえてくれた。


でもそれくらい本当に消えてなくなりたくて、切ない感情を一緒に支えてくれる人もおらず、ただただ絶望の淵に立って暗闇に涙を落としていた。


死にたいというか「お前のトリミング、誰も必要としてないよ」と言われた気がして、もう既に僕は死んでいるのではないかと思った。


僕の最後の砦であるトリミングの腕で負けるって、死ぬ感じがする。


気づくとセブンスターが二箱空になっていて、漫喫での僕のブースだけ濃霧に包まれていた。




いつの間にか眠りに落ちていた。


あれ、泣いたんだっけ、泣かなかったんだっけ。


思ったより穏やかな心持ちでびっくりした。


ちょうど小雨くらい。


またみどりの窓口で見た炎天下の心を取り戻せるだろうか。


なにか変わらなければいけない。


なにか変わらなければいけない。


気づくと僕は巣鴨のソープへと駆け込んでいた。


先輩のトリマーから「お前は自信がないんだよ。たぶんモテてないから。だから毛並みの切り口にもそれが現れてんだよ」と言われたのを思い出したのだ。


それを聞いたときは生意気にも「あっコイツ、自分がモテるからって都合の良いように価値観捻じ曲げたな?」と思ったものだが、最初に思い出せたToDoリストの項目がそれだったのだ。


一つ言っておくと僕は数年前に近所の学習塾のボイラー室で女の子から本免許を賜っているので、別に初めてじゃねえんだからよお〜♪と鼻歌歌って余裕かましながらそのソープの前を30往復くらいした。


頑張れ自分、すべてがトリミングの力になるぞ。


そりゃ気持ち良かったけれど、2万円分のなにかを得たかと言われると疑問符だった。


吹っ切れた感覚はあったが、その卑小なポジティブに値段をつけるならば3500円くらいだろうか。


しかし、ここが僕の空母であるようには感じた。


ここ、すなわちおぱんぽん


燃料が満タンになったと自分に言い聞かせてとにかく飛び続ける、たぶん健康に生き続けられる道はそれしかなかった。


そういえば、ベッドの上のタオルやらが入っている棚に頭をぶつけて建てつけを悪くしてしまったが、笑顔で「ナイスヘディング♪」と言ってくれたあの人はかなり頭が切れる。


きっとどの世界でもそれなりに良い仕事をしただろう。




それから10月初頭、僕は小さいトリミングコンテストで賞をもらった。


久しぶりの、生きててもいいですよ免許。


去年また違う大会で賞を獲った時は数時間後の打ち上げでずっとさめざめ泣いていたものだが、今回はニヤつける余裕があった。


傷ついた男は強くなるというが、僕は図らずもそれを体現してしまった。


ただ強くなるという表現は少し間違いで、手の届きそうな距離に浮かぶ幻想の多くを諦めた結果、自己防衛が上手くなったというのが正しいだろうか。


副作用として、喜びも半減してるんですけどね。


それから新聞にも載ったし、テレビにも出た。


少しずつではあるが、どうすればよりワンちゃんを可愛くできるかもわかってきた気がする。


ああまた、自分に期待しそうになってしまう。


いずれ必ず来る反動に備えてみぞおちに力が入ってしまうが、その浮き沈みの激しさを客観視するとこの上なく愉快で爽快なのだ。


きっとあの日無料トリミングイベントに来て僕に優しく微笑みかけた飼い主らも同じことを思っていたのだろうと最近ようやく気づく。


彼らは僕がトリミングした犬を透かした先にある僕の若々しい精神世界を覗いていたのだ。




茶髪にしたからか、スマホカバーを3980円のお洒落なのに変えたからか、トリミング自体の調子がいいからなのか、東京へ行った日の夜に和民で無農薬君に「翔さんかよ」と言われたシルバーアクセをつけているおかげなのか、原因は分からないがじわじわとモテるようになった。


ひょっとすると数々の自己諦念が男の色気に昇華したのかもしれない。


こないだJKとJDに一回ずつ告白されて胸がはち切れそうだったが、丁重にお断りした。


JKといっても、条例に触れないJKね。


彼女は僕に断られると静かに泣き始めた。


かつての自分と重ね合わせて思わずアメスピを差し出しそうになる。


ポケットに手を戻しながら「いや俺彼女が欲しいわけじゃないんよね…ごめん」と言った。


「怒涛の苦しみの連打を浴びてきた僕こそ未然に防げる苦しみは潰しておく義務あるよな」とか「僕にもちょっとつまみ食いする権利くらいはあるはずだよな」とか「今日のメイク高梨沙羅に似てるな」などなど。


それらすべてをサガミオリジナルもビックリのおよそ0.005秒で脳内天秤に載せた結果、「断る」側に針が振れた。


こういう緊迫した場面だと変に頭の回転が早くなるので、迷うそぶりもなく即決したように見えただろう。


本当に真剣に悩んだし、というかその「断ると静かに泣く」を勘定に入れてなかったよ。


久しぶりにチヤホヤされた喜びとか、希望に満ちたJKを泣かせた罪悪感とかで、心の中がぐちゃぐちゃになって吐きそうだった。


でも僕も僕なりに叶えたい事があるのだから、どうか爆サイで僕をコテンパンに叩くくらいで許してほしい。


僕もあなたもこの結末が正しいと信じて生きるしかないとは思うが、とにかく申し訳ないことをした。


あれ?僕はいつから女の子を振る側の天上人になったんだ?


人間は自分が何軍かわきまえて生きなきゃ破滅するぞ?


もうしてんのか?




とまあいろいろあったけれど、僕は一流のトリマーになるために日々もがき苦しんでいる。


僕はまだまだ三流。


でも君らが思っているほど僕はバカじゃないよ。


誰かに必要とされるために身体と心を削って生きてんだよ。


とにかく件のJKに刺されでもしない限りしばらくは死なないと思うので、皆様の心のどこかで日本一のトリマーになる夢を応援して下されば、これに優る喜びはございません。




ここまで書いたところでテレビ横の「100万円 溜・ま・る BANK」と印字された貯金箱が目に入った。


少し前から500円貯金を始めて、少しずつ重みが増してきた。


貯金箱の裏にはマジックで「結婚資金」と書いてある。


これ僕なりのロマンチック。


あー好きな人と結婚してえ。


やっぱそうだな。


好きな人と結婚。


これくらいかな、僕が僕の人生に望む事は。




いろんなトリマーがいると思うが、僕は「いま幸せですか?」と聞かれたら「すっごく幸せです!」みたいなテンションで「すっごく不幸です!」って答えると思う。


自分が幸せでなければ人を幸せにすることはできないという言葉を聞いた事があるが、そういう奴は同情抜きで不幸な人の心に寄り添えるのだろうか?


幸せな奴はそのまま幸せでいて欲しいと思うが、不幸な人間だって幸せを生み出せるということだけは知っていて欲しい。


世の中の事柄に限らず自分のことですらよく分からないのだが、死ぬまでに一匹でも多くのワンちゃんを可愛くしたいという僕の志は嘘偽りのないものだと思う。


毛並みの汚いワンちゃんがいましたら、ぜひ僕のところまで。


ではまた。